意見を言う、行動する、スカっとする! 【2012.08.31 Friday 05:29】 |
「人生たかだか50年……」と言われていた時代があったことをご存知の世代は、きっと私と同年代、またはその上のはずですね。 げげげ、私、その50年からもう何年もさらに年を取ってしまいました。 でも、自分がそんな年代になっても、私はいまだに、 「ふううううん、そうだよなぁ……」 と、つくづく思わせてくれる友人に恵まれています。 Joann Geddes氏。米国人なのに、彼女は昔の日本人のような振る舞いをします。控えめで、自分の損得勘定は後回しで、人のことばかり気にしています。 多くの外国人留学生と一緒に大学で時間を過ごすようになったことから、異文化に対する心からの尊敬が彼女をそういった人格にしたのだなぁ、と思います。 でも、彼女の家族の話を聞くと、兄弟たちも彼女によく似ているので、家族の中に育まれている謙虚さとか、異文化に対する許容量の大きさとかがあるのだな、とも想像します。 彼女は私が卒業した、米国のオレゴン州ポートランドにある、私立の大学Lewis and Clark Collegeの外国人が英語を学ぶ機関のDirector をもう何十年も勤めています。 私は、日本の高校を終えてから、そこで英語を学び、大学に入学し、そしてさらにその機関に舞い戻り、教育実習をさせてもらった人間なのです。 Joannには、直接英語を教えてもらうことはなかったのですが、私はこの古巣の事務所が大好きで、よく遊びに行っていたので、彼女とも親しくなっていったのでした。 実は、Joann、私の友人の中で、私の米国の家、東京の家、そしてこのダーバンの家、合計3軒の我が家を訪れてくれた数少ない人でもあります。 一時期、私と夫は、オレゴン州に家を持っていた時期があって、自分たちがその家を使わないときは、スキー客などに家を貸していました。Joannはある年、東海岸に住む自分の親兄弟たちと一緒にこの家を借りてくれたこともあったのです。 東京の我が家には、大学のリクルートの関係で来日していたとき、たまたま日本にいた私を訪ねてきてくれたのです。 彼女は、独り身なので、フットワークが軽いのです。 今回、彼女は彼女の姪Caseyを伴って、アフリカへ来てくれました。 結婚暦はあるとはいえ、子どものいない彼女、甥姪たちに、こんなことを宣言しているのです。 「あなたたちが行きたいところ、世界のどこにでも一回連れて行ってあげる」 今回アフリカに来てくれたCaseyの兄たちは、なんと、一人は中近東のアラブ首長国連邦へ、一人はペルーへと、それぞれの“夢の外国”に連れて行ってもらっているのです。 こんな叔母さん、いいですよねぇ。 Joannはつくづく自分の利益よりも、自分の身の回りの人間の幸福を考えている人なのです。彼女にとって、自分の姪や甥が広い世界を見ること、いろいろな文化を実際に学ぶことは、たとえそこにかなりな額の費用がかかったとしても、ものすごく価値のあることなのです。 さて、今回の“アフリカ旅行”はCaseyのたっての希望により実現しました。Caseyがどうしてアフリカに興味を持っていたか、というとこれはまぎれもなく、Joannの影響です。 アフリカの中でも、今回二人が訪問したのは、ルワンダと南アフリカです。ルワンダについては、ちょっと説明が必要ですね。 実は、彼女が教えている私の母校のLewis and Clark Collegeは、2004年より、ルワンダから英語を勉強したい学生を1年に一人受け入れて教育しているのです。この奨学金の設立、維持、運営に大学側の人間として最初から関わったのがJoannなのです。 皆さんはルワンダで行われた大虐殺事件を覚えていますか? これは、ツチ族とフツ族がお互いを殺しあった凄まじい事件でした。この狂気の数年間、虐殺されたルワンダ人は100万人にも上ると言われています。 昨日まで親戚だった、同僚だった、クラスメートだった人間が、ただただ出身部族が違うから、という理由で虐殺する、される、という状況はどう誰が説明しても、納得できることではありません。 が、これも、アウシュビッツで起きたこと、広島、長崎で起きたことと同じように、私たちが孫子の世代に伝えていかなくてはいけない世界の歴史であり、事実なのです。 そうして、さらに、その被害者たちをどう救済していくか、ということが大切ですよね。そして、これをどうやって風化させないか、ということも。 Joannにこの奨学金の設立を促したのは、そのときLewis and Clark Collegeの学生だったMichael Grahamでした。彼は、学生たちがルワンダで起こったことをあまりにも無知だったことに驚愕し、この大虐殺のとき、カナダ人の平和維持軍(国連ルワンダ支援団)の司令官だった、Romeo Dallair 氏(現・カナダ上院議員)をLewis and Clark Collegeのキャンパスに呼び、学生、教授陣、スタッフ、すべての人間にこの悲劇を彼の実際の経験から教えてもらおうと彼 をキャンパスに招聘することを企画したのです。 この学生、Michaelの行動力もすごいのですが、このRomeo Dallair 氏をキャンパスに呼ぼうとしたことがきっかけになり、Joannを始めとしたLewis and Clark Collegeの教授陣、経営陣が一丸となって、この奨学金を立ち上げることに成功したのです。 今では、Lewis and Clark Collegeが毎年ルワンダから学生を一人をに招聘しているだけでなく、この動きが別の大学にも広がりつつあるのです。 Lewis and Clark Collegeは、このルワンダからの奨学生のため、学費と寮費を免除しています。また、大学の寮生のための食堂を経営している会社も、この奨学生のために年間を通して食費も免除しているのです。もちろん、奨学生が米国に来るまでの旅費、大学についてからの個人的なお金も、大学で必要とするテキスト代も、すべてこの奨学金委員会が負担しています。 大学をあげて支援しているこの奨学金が示していることとは何でしょう。それは、例え数は少なくても、“教育”によって起こる社会の変化への応援です。 教育が持つ力とは人を育てることだと私は信じています。 社会が変化していこう、とするときに必要なのは、後ろを振り向かず、頭を垂れず、前進していく人間です。 その人間を自国のみで育てるのが難しいのであれば、それができる人が、組織が、社会が援助していけばいいだけのこと。 いま、ルワンダで、英語を自由に操れる、というのはものすごい戦力となるのだそうです。 私もエチオピアにいたときに、政変により、経済的に有利な“外国語”がひとつの言語から別のものへと移行するのを目のあたりにしたことがあります。 この大虐殺が起こる前、ルワンダはフランス語圏でした。もちろん、現地の言葉、スワヒリ語なども話されていたのですが、学校や公の場所ではフランス語が公用語として強かったのです。 が、大虐殺が終わり、国際機関、国際NGOが多くルワンダに入ってくるようになると、この“有効な外国”は、フランス語から英語に劇的な速さで移行していったのです。 Lewis and Clark Collegeのこれまでのルワンダ人奨学生は、7名にもなり、それぞれが素晴らしい活躍をしているそうです。一年間のLewis and Clark Collegeでの留学を終え、ルワンダに帰国した奨学生の中には、ルワンダの健康保険制度を作成したり、大統領の補佐官を勤めたりしている人もいるそうです。 本当に素晴らしいことだと思います。 だから、Caseyがアフリカ、ルワンダに来たい、と叔母のJoannに言ったとき、彼女はとっても嬉しかったそうです。 そして、ルワンダの次は南アフリカ。これはどうやら、Joannは若いCaseyを私に会わせたかったようで、いま、私が関わっているサッカーで進めるHIV・Aids予防で何日かボランティアをしたい、という希望を持って、私の住むダーバンを訪問してくれたのです。 この二人の滞在中、私もできるだけ仕事を整理して、ダーバン近郊を案内して、楽しい時間を過ごしました。 その旅行中、Joannの静かな語り口でいろいろなことを聴いたのですが、私が膝を打って、「そうだよなぁ」とつくづく関心したのはこんなことでした。 「私は美容室もそんなにこだわる方ではないから、気の向いたときに、予約もいらないような安いお店に行くの。ある日、新しく行ったお店で髪をカットしてもらっていたの。でもね、その白人の美容師がポートランドに来たばかりの人で、その人が、“私のいま住んでいる地域には黒人が多くて辟易よ。黒人の間に住むためにポートランドに来たわけじゃないのに”って言うのね。私は最初はガマンしていたんだけれど、ガマンの限界が来て、席を立ったの」 私は、ほおおおおおおお、と関心しながら、こう聞きました。 「へええ、でも、その時、髪の毛のカットは終わっていたの?」 Joannはいたずらそうな眼をして、首をふり、 「とんでもない!頭の半分はまだ長いまま、髪の毛も半分濡れていてね!」 Joannは、その差別発言をしていた美容師にこう言ったそうです。 「あなたのような人種差別主義の人に私の髪の毛を切って欲しくない。お金も払いません」 そして、雄雄しく!美容院を出てしまったそうです。 はあ、Joann、なんて格好いいんでしょう! そうなんですよね、この年まで生きてきて、こういう時にこのぐらいの台詞が言えなかったら、オンナが、いや人間がすたる、というものです。 私は本当に素晴らしい友人に恵まれています。 |
author : y-mineko
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| この人のこと、あの人のこと | comments(4) |
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