新しいトモダチ | 空の続きはアフリカ
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新しいトモダチ

【2009.11.18 Wednesday 17:02

自分たちで選んだこととはいえ、多くの土地を歩き、家を移り住み、という人生で、新しい土地での“トモダチ”作りはそう簡単ではない。

夫が政府系の役人でアフリカの都市を移り住んでいた時代は、それでも周りもみんな同じ境遇だったこともあり、比較的短期間に親しい友人たちができた。それこそ、いまだにつきあいのある友人たちもたくさんいる。

リベリアの首都モンロビア。あの海の音の聞こえる街でありながら、あまりの暑さ、湿度の高さで、私たちは常に空調の利いている部屋で奨学金の査定をしたり、おしゃべりをしたり……。その時、一番親しくしていたデンマーク人のエバは二年前乳がんで亡くなった。

時折電話で近況を確かめ合うエバの夫・アンドリューはケニア人。もう確か80歳に近いはずなのに、この頃、新しいパートナーができたそうだ。

「ほお〜」と感心してしまった。エバも苦笑しているだろうなぁ。

エバと私はお互い米国人ではないのだが、「在リベリア・アメリカ女性の会」という組織に入って、いろいろ活動していた。私たちがこの組織に惹かれていたのは、リベリアの子どもたちに奨学金を与える、という目的がしっかりしていたから。

活動し始めて2年くらいして、私はこの組織の奨学金委員会の委員長にまでなってしまっていた。

リベリア中から届く奨学金申請の手紙。中には判読できないようなひどい殴り書きもあった。メンバーの中から、「こんなひどい体裁の手紙を書く子は、結局成績審査に残らないんだから、はじめから相手にしなくてもいいのでは」という意見が出た。

私たちは、一週間で大量に届く子どもたちの手紙に、一通、一通返事とともに申請書を送付していたのだ。

確かに、週一回、ボランティアが集って進める作業量は増えるばかり。手書きのひどいものをその場で淘汰していたら、かなり作業量はかなり減るのは確実だった。

大方のメンバーが同意しそうになったが、私はそのとき新参者ながら、「それは違う」と思った。

1980年代後半のリベリアは戦争前のリベリアで、まだまだのんびりしたところがあった。人々の暮らしは楽ではなかったが、それでも市民生活は存在していた。少なくても銃器の音に脅える必要はなかった。何よりも郵便が機能していたのだ。

私は思い切って、

「仕事量が減るのは嬉しいけれど、でも、私たちに手紙を送ってくる子どもたちって、大人たちから社会から一回も丁寧に対応してもらったことがない子もいると思う。そういう子どもたちに、私たちが、平等な立場で一人一人に“返信”する、というのは、この子たちにとって大きな意味があると思う。きっと、奨学金がもらえなくても、自分宛の手紙をもらうこと自体がものすごいことなんだと思う。きっと、自分を一人の人間として扱ってくれた、というような温かい思いをこの子たちは受け取るんだと思う。そのためなら、汚い字でもがんばって読もうよ。返事をもらう、ということがこの子たちに、何かのメッセージを送っているんだと思う」

というようなことを言ったのだ。

私は、リベリアの田舎街で、郵便局で自分宛の初めての封書を受取るリベリア人の子どもの姿が想像できたのだ。

そのとき、エバが、

「You are good.  I almost agreed not to respond to bad letter writing.  But you have a point. ―― あなた、いいわね。私もほとんどそういった手紙を無視することに賛成しそうだったけれど、あなたの言うことに一理あるわ」

といってくれた。私はそのときのエバの目を細めながら私の顔をじっと見つめながらそう言った口の動きさえ覚えている。

日本人の若い新参者(その頃まだ20代だった私!)が、大方のおばさまたち、特に米国大使館の外交官の奥様たちがほとんどの会で、“反対意見”を言うのだから、今思えばかなり大胆だったのかもしれない。

こんな四半世紀も前のことを思い出したのは、先週読み終えた、単調な小説の中のある一節にかなり激しく反応してしまったから。



Anita Diamant 2001

この本は30代後半と50代後半の女性が新しい人間関係を築く物語。年上の主人公の一人は乳がんの手術をしたり、その治療に悩んだりする。物語の展開はあくまでも二人の日常をたんたんと描きながら進むので、普段犯罪小説やミステリーを多く読む私にとってはちょっと物足りなかった。

が、その若い方の主人公がある場面で、ある女性にこう言われたシーンがあった。彼女は、PTAの会合で意気投合したこの女性に、「今度コーヒーでも飲みましょう」と誘ったのだ。

すると、この女性は、「ごめんなさい、私、いまいる友人たちだけで手いっぱい。新しい友人を作る余裕がないの」と答えたのだ。

これ、私には“ざっくり”ときた。

確かに、確かに、同じ場所にいて、同じ友人関係に囲まれていたら、“新しいトモダチ”って、面倒くさいのかもしれない。

でも、自分の意思とは関係なく、例えばパートナーの転勤、病気、親の介護、などなど、思いもかけない理由で、人生思わぬ理由で新しい土地に移り住まなくてはならない人はとっても多い。

そんな人たちにとって、「新しいトモダチはつくらないのよ」と、拒絶されるのって、本当にツライことなのだ。

差し出す手は握り返す、ってそんなに大変なことじゃない、と私は思う。私は差し出されたら、もったいなくて絶対に握り返してしまう。

本全体にはあまりココロは踊らなかったけれど、この一シーンはいつまでも私の中に残りそうな気配がする。

エバはもう亡くなってしまったけれど、私はエバと過ごしたあのリベリアでのこと、彼女たちを英国に訪ねたこと、また、彼らが日本に来てくれたことなどをたくさん思い出す。

エバのその発言で、その場にいた全員が、「その通りね」と頷き、どんなに汚い手紙でも、組織としてリベリアの子どもたちの手紙には必ず返事を書く、ということに皆が考え直してくれたことも忘れられない。

author : y-mineko
| 読書のこと、映画のこと | comments(14) |

この記事に関するコメント
この記事のいろいろな部分に、私の心もざっくりときたのですが、今一番言いたいことは、奨学金の会で峰子さんがみなさんに言った言葉についてです。本当にすばらしいです。丁寧に、大切に接してもらう機会があってこそ、人は自分で自分を丁寧に大切に扱えると思います。そして、殴リ書きの文字しか書けなかった彼らが、それでも勉強したいという希望をもってあげた手を、握り返した峰子さんの言葉が、まぶしいです。あ〜すばらしいです。
| 谷澤 | 2009/11/18 10:46 PM |
久美子さん、

ありがとうございます。私は、子どもたちが何とか切手代を工面している、ということにも、ものすごく感動していたので、なんとかね、その思いを汲み取ってあげたかったのです。

リベリアの田舎で、たとえ切手代だったとしても、「現金」を工面するって、どれほどの試練だったか。いまでも、そのことだけでも、彼らの「勉強したい」が伝わってきて、胸が苦しくなります。

復興が進みつつあるリベリアを再訪したいです。いつか必ず!
| 吉村峰子 | 2009/11/19 1:09 PM |
峰子さん!!!
大好き!!!!!!!!!!!

わたしね、「なあなあ」の優しさはちがうなって思うこともあるのです。ときには甘えすぎる自分や相手(特に、その行為が公平さや他の人の心の犠牲のもとに行われる場合)に「ちがうよ、だめだよ」っていうことは必要だって。
でもがんばったり、勇気を出して手をさしだしたり声をあげるひとに、手を握り返すのって、峰子さんがおっしゃるとおり、「そんなに大変じゃない」ですね。
読みづらい字で書いてあっても返事をもらった子たちは、奨学金がもらえなくても、きっと、ぜったい、うれしかったと思う。気持ちの大きな支えになったんじゃないかな。うう、いいもの詠ませていただきました〜〜〜

空のつづきがアフリカにつながって、うれしいうれしい。
| 葉 | 2009/11/19 1:20 PM |
初めまして。峰子さんの発言に賛成です。
そのとき奨学金を受けられたり、返事をもらえた子は
ラッキーでしたね。今もその土壌が残ってる事を
一抹の光かもしれませんが祈っております。

>でも、自分の意思とは関係なく、例えばパートナーの転勤、病気、親の介護、などなど、思いもかけない理由で、人生思わぬ理由で新しい土地に移り住まなくてはならない人はとっても多い。

>そんな人たちにとって、「新しいトモダチはつくらないのよ」と、拒絶されるのって、本当にツライことなのだ。

この文章、甚く心に響きました。私はそう思って接して来ていたのですが、最近の人たちは違うのかもしれないですね。自分が年齢を重ねて来たから、なのかもしれませんが。今,そう思っている人たちは,同じように年齢と経験を重ねたら、「悲しいなぁ」と思うのでしょうか?

多分、新しい人を拒絶するのは、都会の中の気楽さに似てるのでしょうか?匿名性とプライバシー、自己愛…等等。

助け合う,というところまでは行きませんが、何とか微力ながらも手伝いたいということを、言葉ではなく態度で何となく拒否されて、昨今とても閉塞感でいっぱいでした。幸い、親密に付き合ってくれている友達がいるのですが。

私も「新しいトモダチはつくらないのよ」と言いそうになっていました。勇気を振り絞って、やって行きたいと思います。

良い文章をありがとうございました。
| 花鳥風月 | 2009/11/20 2:45 AM |
葉ちゃん、

私の尊敬する秋山ちえ子さんがね、私に、ちゃめっけたっぷりに、「ほほほ、私を褒めてね。年をとっても、褒めてもらうのって、嬉しいわよね〜」とおっしゃっていましたよ。先生はもう92歳。いいよね〜。

要ちゃんや久美子さんが、私の記事を読んで、そのままの勢いで感想をダイレクトに書いてくれるのがうれしいです。涙がでちゃうくらい!

子どもも大人も自分のしていることを誰かが見てくれて、「いいねぇ、がんばっているね〜」と応援してくれるのって、本当に嬉しいのよね!ありがとう〜。
| 吉村峰子 | 2009/11/20 2:42 PM |
花鳥風月さま、

私の文章が花鳥風月さまのお心に届いたとのこと、嬉しいです。コメントをありがとうございました。

私は突進型のオンナですので、どれだけ的外れなこともしてきたかと思います。しなくて後悔するよりは、した後で、「う〜む、これはいささか早とちりでしたなぁ」と反省することのほうが結果的に多かったような気がします。

それから、「これは私の出番」と思うときは、迷惑がられても、頼まれていなくても、手を出します。お節介も甚だしいですよね。でもね、困っているけれど、遠慮しちゃう人がものすごく多いから、こういうお節介がいてもね、まあ、いいかと。

私は本当に友人に恵まれていますから、そのありがたみを誰よりも知っていますから、ほんのちょっと、それがお裾わけできれば、いいなぁ、と思うのです。

どうぞこれからもよろしくお願いします。
| 吉村峰子 | 2009/11/20 2:55 PM |
このサイトを読んで、何か「見つけた!」という良い気分になりました。
私は、今人生初めての就職先として海外を選び、夫と暮らしています。
小さいときから引っ越しが多く、人と人とのつながりこそが宝モノだとわかっている反面、自分を根無し草のように感じて寂しくなることも…

もうすぐ日本に帰国する日が迫っていますが、このサイトに載っている方々のように、自分の好きなことをしながら、人生を大切にめいいっぱい生きたいと思います。

本当にありがとうございました。
これからもちょくちょくのぞかせて下さいね。

| Ikumi | 2009/11/24 6:32 PM |
峰子さん始めまして♪葉さんブログから<空色庵>へ飛んできて、峰子さんのブログに出会う事ができました^^
リベリアの子供達への峰子さんの愛情に感動しました。殴り書きの手紙の背景にあるもの、返事を受け取る時の子供達の気持ち、気をつけないと見過ごしてしまうものがたくさんありますね・・・
今AUSにワーキングホリデービザで滞在して、調度半年になりました。先日半年の節目にこっちの友人達とBBQをしたんですが、<新しい友達>それもコミニケーションに難有りの私を受け入れてくれて色んな形で支え助けてくれる、友人達に本当に感謝しています。彼らの優しさから多くの事を学ぶ日々です♪
お身体大切にしてくださいね^^
| なおち | 2009/11/25 12:06 AM |
Ikumi さま、

なんて素敵なコメントを書いてくださるのでしょう!Ikumiさんがここでおっしゃっていることを私たちは目指していたのだなぁ、と思います。

私たちの書くことが、皆さんの励ましになればこんなに嬉しいことはありません。早速、全員でIkumiさんのコメントを共有させていただきました。

また、ぜひぜひお立ち寄りくださいね。ありがとうございました。
| 吉村峰子 | 2009/11/25 4:58 AM |
なおちさま、

まあ、葉ちゃんつながりなんて、なんて素敵なんでしょう!なおちさんはオーストラリアで素敵なお友達がたくさんできたようですね。

小さなこと、些細なことに、大切なことがたくさん詰まっていますよね。どうぞ、オーストラリアでの残りの半年、楽しく充実した毎日をお過ごしくださいね。
| 吉村峰子 | 2009/11/25 5:01 AM |
初めまして。cafeblo からこちらへ遊びに来ました。
今回の記事を拝見して、私も自分の気持ちを伝えよう!
伝えなくちゃ!と思い、書き込みしています。

個人的に心が折れそうになる状況が多い今年なのですが、
そのたびに峰子さんの、一本芯の通った、ぶれない姿勢に
勇気づけられてきました。
女性として母親として、お手本にさせていただいています。
いつも本当にありがとうございます。

お体には気を付けてくださいね!

| mimosa | 2009/11/26 10:58 AM |
mimosa さま、

いらっしゃいませ〜!空色案へようこそ。

そうですか、心が折れそうになることが多いとは。でも、こうやって、コメントを下さって、本当にありがとうございます。

mimosa さんがどちらにお住まいかは分からないのですが、骨休めをしたかったら、南アの私のところに遊びにきてくださいね。北半球からはちょっと遠いのですが・・・。次の急行に乗って、ダーバンで下車ですよ!

| 吉村峰子 | 2009/11/27 1:49 PM |
峰子さん はじめまして。実は2年ほど前からもうひとつの「アフリカに遊びにおいで」のファンでした。(なぜかカイトライナーの本の紹介でそちらのブログに巡りあったのです。)そして機会があったらお目にかかる事ができたらなぁ〜と思ってました。アハハ・・勝手な片思いでしたぁ。 ”うんうん、そうそう、へぇーー↑、すごい” と独り言をPCの前で言っていてもコメントする事もできぬまま2年も経過。そしてもうすぐ帰国となってしまいます。いつもブログを読んでは力をもらっていました。ありがとうございました。峰子さんのブログに出会えただけでも良いとしよう!これからも楽しみにしてます。お身体にお気をつけてがんばってください。
| mimic | 2009/12/20 5:14 PM |
mimicさま、

まもなくご帰国、とは、mimicさんはまさかダーバン在住ですか?それだったら、どうぞ、どうぞ、連絡してきてください。私はこの休暇はどこにも出かけず、ひきこもっております。ぜひ、我が家に遊びにきてくださいね。連絡先は、cafeglobe のプロフィール欄に、私のGmailのアドレスがあります。ええい、面倒だ!携帯電話は 082 344 3490 です。ぜひ!
| 吉村峰子 | 2009/12/20 5:48 PM |
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吉村 峰子
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